自宅での介護で苦労する点
「なるべく施設に入居せずに、家族で介護してあげたい。」と思う方も多いです。「自宅で介護をすることは大変だが、やってみよう!」と思い、覚悟を決めて実際に体験してみると、その苛酷さに音を上げてしまう方もいます。また、介護疲れやストレスが原因で「介護うつ病」となってしまう方もいます。「介護うつ病」のは在宅介護者の4人に1人が発症してしまうとも言われており、介護うつ病が発症することにより、介護虐待や介護離職につながることもあります。介護うつ病やそれに伴う介護虐待などを起こさないために、あらかじめ自宅での介護の辛さを理解し、予防策を取ることが大切です。
厚生労働省が調査した自宅介護者による相談・通報件数と虐待判断件数の推移をみると、急激な件数増加は見られないものの、約15,750件近い虐待が身内である養護者により行われている点は簡単に看過できるものではありません。特に認知症の高齢者が虐待を受けるケースが多く、突然の変貌や奇声、奇行などにより、ストレスを溜め込み、イライラしてしまうことが、介護者による虐待につながっているようです。
認知症について
認知症とは、色々な原因で脳の細胞の働きが悪くなる、または死んでしまうことにより、多くの障害が発症し、生活する上で支障が出てしまう症状を指します。
認知症の主な種類として、「アルツハイマー型認知症」、「脳血管性認知症」、「レビー小型認知症」、「前頭側頭型認知症」があり、世間一般で「認知症」と言われるもののうち、約60%が「アルツハイマー型認知症」で、約20%が「脳血管性認知症」です。
認知症の中でもっとも発症率が高い「アルツハイマー型認知症」の具体的な症状は下記のとおり。
症 状 | 障害内容・発症時の行動 |
---|---|
記憶障害 | 記憶障害の代表的な例が物忘れです。誰でも物忘れはありますが、たいていの場合、指摘されることで、思い出します。「アルツハイマー型認知症」の方の場合、記憶できていないため、思い出すことができません。新しいことが覚えられない、物を置いた場所を忘れるといった短期的な記憶障害から、自分の職業・家族の名前などがわからない、自分が体験したことを忘れてしまった、言葉の意味がわからない、家事などの身体で覚えた作業の仕方を忘れてしまう、といった障害が起こります。 |
見当障害 | 認知症の初期症状の一つです。自分が置かれている状況を認識することができなくなり、今日の日付、今自分がどこにいるのかがわからなくなります。人・時間・場所がわからなくなるといった症状が出るので、簡単な問診などでも把握することができます。 |
判断能力の低下 | 「アルツハイマー型認知症」が発症すると、判断力も低下します。例えば、料理する時にどの食材を使えばよいかわからない、掃除をする時に捨てるものがわからない、片づけ方がわからないといった症状が発症します。場合によっては、信号無視をしたり、線路の中を歩くといったことや、万引きをするなどの行為をすることもありますが、「それらの行為が悪いことである。」という判断ができないことが原因です。 |
心理症状 | 妄想や虚言などにより、人を責め立てたり、徘徊したり、介護を拒否することがあります。ひどい場合、「物を盗まれた」と被害妄想に陥り、暴力や暴言を吐いたり、鏡に映った自分の顔がわからず、怒鳴り散らすこともあります。 |
2012年の時点では65歳以上の高齢者のうち、約462万人が認知症を患っていると言われていますが、2025年には700万人を超えると厚生労働省が発表しました。今後は、5人に1人が認知症に罹患すると推測されています。

自身の思い込みやイメージだけでなにか物事を始め、実際にやってみるとイメージと合わずにやめてしまったという経験はないでしょうか?自宅での介護も同様で、大変さをイメージし、覚悟したつもりでも、いざ始めると、イメージと実際の介護の大変さとのギャップに戸惑うことがあります。こういった小さなことも介護うつ病を発症する原因となります。より介護に対する理解を深めるため、事前に多くのことを吸収するよう努力することも必要です。
順位 | 内容 | 割合(%) | |
---|---|---|---|
1 | 排泄 | 排泄時の付き添いやおむつ交換 | 62.5 |
2 | 入浴 | 入浴時の付き添いや身体の洗浄 | 58.3 |
3 | 食事 | 食事の準備や介助 | 49.1 |
4 | 移乗 | 車いすからベッド、便器、浴槽、いすへの移乗の際の介助 | 48.3 |
5 | 起居 | 寝返りやベッド、いすからの立ち上がりの介助 | 47.7 |
6 | 移動 | 屋内を歩いて移動する際の介助 | 37.8 |
7 | 認知症ケア | 認知症の症状への対応 | 28.9 |
8 | 見守り | 徘徊防止や夜間の転倒防止の見守り | 28.2 |
9 | 外出 | 買い物などの付き添い | 19.4 |
10 | リハビリ訓練 | 歩行訓練などの付き添い | 16.1 |
厚生労働省が行った調査によると、実際に介護を経験した方が苦労したと思う内容は上記のとおりです。上記のような介護に対する苦労や悩み、より具体的な話などはインターネットで検索すると多数出てきますので、そういった具体例を参照し、より明確に介護に対するイメージを持てるようにしてください。
また、介護うつ病を予防するためには、介護者の健康を第一に考えることが必要です。介護者が、心身ともに余裕がなくなることで、精神的に疲弊してしまい、結果的に介護うつ病を発症してしまうことが多いです。 介護者が健康でいるための予防策の例は下記のとおりです。

- ①介護以外にも仕事するなどして、介護に時間を費やしすぎないこと。
- ②趣味を作るなどして、介護を忘れて楽しめるものを見つけること。
- ③家族や友人など相談できる相手を何人か作っておくこと。
- ④家族がいる場合、家族にも介護に対する理解を求め、協力しながら行うこと。